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◆自伝的エッセイ・好評の続編!
瀬戸内海に点在する島のひとつ、生口島で生まれ多感な幼少期を過ごした著者の自伝的エッセイの続編。
人はなぜ生きるのか、何のために生きるのか――。
自分の本当の気持ちを偽り我慢することが本当に正しいことなのか。苦悩しながらも一歩ずつ前に進む旭青年。
高校時代から就職、そして慣れ親しんだ瀬戸内海を離れた大学進学までの道程が筆者の素直な思いと共に伸びやかに描かれる。
◆内容紹介
友人から小型のカメラを借りて、帰郷の途に就いた。新幹線ひかりに乗って岡山駅まで。そこから山陽本線に乗り換える。松永駅を過ぎると、もう海の香りがしてくるかのようななつかしさでいっぱいになる。尾道の駅に近づくと、海岸べりの家々の瓦屋根やビル越しに、備後水道の海が見える。林芙美子の『放浪記』さながら「海が見えた。海が見える」の景色である。尾道の造船所、向島の造船所の水色のクレーンもなつかしい。千光寺山が見えた。ロープウェイも見える。振り返れば、備後水道に架かる尾道大橋。駅に降りてまっすぐ正面の百m先に桟橋。因島(いんのしま)行きの船に乗る。濃緑色の瀬戸内の海が無性にうれしい。潮の香りが鼻をくすぐり身にしみてゆく。二年ぶりとは思えないほど、なつかしさがこみあげてきて、目に鼻に顔全体に全身に海風がしみ込んでくる。めったやたらにカメラのシャッターを切っていた。島に生まれてこのかた、十八年間。生口島はもとより尾道の町も呉の町もみな瀬戸内海の見える町で育った私は、海の見える暮らしが当たり前であったのだが、上京後二年間近く、まったく海を見ることがなかったのだから、ずいぶん心が海に飢(かつ)えていたのであった。
(「大学時代 十九」より)
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