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勝者とは別に歴史に埋没した敗れし者に光をあてる初期中世の裏面。政争と怨霊、怨霊と内乱、修羅の群像をテーマに、敗れし者たちの足跡を追う。
以下、試し読み
「Ⅰ 怨霊と政争」
ここでは十~十一世紀の時代枠で、王朝政治史を語りたい。〝王朝〟の語が最も似つかわしい時代だろう。藤原氏が摂政・関白を独占した、いわゆる摂関政治隆盛の時代だ。宮廷内に多くの才女が登場する、女房文学の時代でもある。多くの読者の平安時代のイメージは、この藤原氏の栄華に由来する。章名のもとで、貴族世界の裏面をかたりたい。中身の多くは多分に『大鏡』による。藤氏が王権の一部を摂関政治という形で請け負うこと、これが王朝政治の本質でもある。小見出しに付した「三平」(時平・仲平・忠平)なり、「三道」(道隆・道兼・道長)の表現は、その『大鏡』が語るものである。語感の親しみもあり、王朝時代の藤原氏をイメージできるキーワードということになる。
ここで指摘しようとするのは、その藤原氏の来歴だ。源氏でも平氏でもない、藤氏についての話である。むろん主題は敗れし者の怨念・怨霊である。そこには菅原道真が、あるいは源高明が、さらには藤原忠文、そして元方がいる。あるいは生霊として著名となった藤原朝成や顕光のことも触れることになる。王朝貴族の栄華は、他方ではこうした人々の宿怨と表裏の関係にあった。この点をふまえることで王朝の政治の流れはより豊かなものになるはずだ。貴族の世界に散りばめられた怨霊の風聞をさぐることで、平安時代の裏面史を耕したいと思う。
怨霊の政争
「三平」時代
――「太郎左大臣時平、二郎左大臣仲平、四郎太政大臣忠平、……この三人の大臣たちを、よのひと「三平」と申き。」
『大鏡』は基経以後の藤氏の血脈をこう語っている。「大宅世継」、この奇妙な名の翁が藤原氏のサクセス・ストーリーの語り手だ。〝大宅〟とは、公であり朝廷を意味する。〝世継〟とは、世の転変、移りかわり、という意にほかならない。道長時代の晩年に属する万寿二年(一〇二五)を〝今〟そして〝現在〟に設定し、道長にいたる藤原氏の流れを列伝風に語った作品、これが『大鏡』である。「世継物語」の別名も、作者の分身たる大宅世継を介して王朝史をひもとくとの設定に由来する。
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