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12世紀ルネサンスの時代。地理的かつ知的グローバリゼーションの経験は,長い伝統の中にあった中世ヨーロッパの人々の意識や社会に新機軸をもたらした。
本書は,情勢に翻弄されながらも自己の生き方を貫き,時代のうねりを創り上げたグローバル・リーダーと,彼らの下で教育を基盤にキャリアを積み,行動を通して知識を力へと変えていった宮廷官僚の姿を,幅広い史料に基づき,生き生きと描き出す意欲的作品である。
登場人物は,イタリアに繰り返し遠征した神聖ローマ皇帝フリードリヒ・バルバロッサ,その出兵を拒否し対立したハインリヒ獅子公,その結果,追放となり異国イングランドで育てられた息子オットー4世などの人々である。ローマ教皇,ビザンツ帝国,各国の君主や勃興する都市の間で思惑が錯綜する中,外交交渉で圧倒的な力を発揮したのは,ことばを操る能力であった。
著者は,行政文書である皇帝・国王・司教証書の分析を通し,文書化の飛躍的進展の背後にある心性の変化が,時の流れによって損なわれる記憶に対する疑いと,時間意識の変化であり,「今」への強い関心の芽生えであったことを繙く。さらに年代記や事績録,都市史を生み出した中世の歴史叙述の視座から,先人の著作を継承しつつ独自の視点を織り込む記述のあり方が,史実だけでなく人々の理想像をも投影し,共同体の記憶を新たに紡ぎ出すメディアとして機能したことを読み解く。
変革を促す力とは何か。真のボーダーレス時代に導きの道標を探り,文書メディア論に挑んだ先端的業績である。
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