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「いいことばかりじゃなかったです、とてもとても
あなた、かってなことばかり言って
過去、なんて、その程度のものなのですよ」
わたしではない口が
不満気に、でも、きっぱりと、言い放った
まばらな拍手はぐねぐねと体内をめぐり
私語をやめ
硬い岩となって野原でめざめる
あなたのつごう、あなたのはんだん、
あなたの、滲む血のかたちは、
ぜんぶ、その身体に、とじこめてあると
博士は言った
きっと誰にも褒められなくてよい
そのちいさく何よりも華やかな拍手のために、
ひとはふっくらと一人である
(「拍手」)
一日は長いヒモだ。結ぼうにも端はなく、いつ昏れたのかわからないまま翌朝になっている。そこを割って入る杉本真維子の詩作は、デモーニッシュな力が働いているように見える。そうしなければ、楽に息ができないというこんとんの淵からの生還なのだ。――井坂洋子
『点火期』から『袖口の動物』『裾花』をへて『皆神山』まで、既刊4詩集全篇、及び未刊詩篇47篇を収録。底知れない視線、切りつめた発語で、2000年代以降の詩に鮮烈な実りをもたらした詩人の全貌。
解説=瀬尾育生 蜂飼耳 阿部嘉昭 文月悠光
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