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◆百句シリーズ
名句が気軽に読める百句シリーズに竹下しづの女が登場!
◆新領域の開拓者
竹下しづの女といえばすぐに浮かんでくるのは〈短夜や乳ぜり泣く児を須可捨焉乎(すてつちまをか)〉。寝苦しい夏の夜にお乳を求めてむずかる赤ん坊に途方に暮れた母親が、しづの女の自解を借りれば「エッ、ウルサイ、捨てちまおうか」と思わず心のなかで叫んだ、そんな場面を詠んだ句だ。もちろん本気で捨てるつもりはなく、下五は、捨ててしまおうか、いや捨てられはしないという漢文の反語表現。とはいえ、一句のなかに「児」と「捨」てるという文字が収まっているだけで衝撃が走る。この句を含む七句が「ホトトギス」巻頭となったとき、俳壇では「黒船が来た」と大騒ぎであったという。
しづの女は近代的自我に目覚めた女性俳人として、青年のような理想に燃えて、情に寄りかからない理性の句、また地に足のついた生活者としての句のあり方を模索した。彼女は進取の気性に富み、旺盛な批判精神の持主であり、社会で働く体験ももち、広い社会的な視野をそなえていた。客観写生が提唱されていた「ホトトギス」にありながら、主観を詠みたいと願い、内容にふさわしい表現法を求めて果敢に挑戦を重ねた。有季定型を守りながら俳句の新しい領域を開拓する過程は時間がかかり、理屈が勝ちすぎた句、荒削りな句もあるが、やがて誰にも真似のできない独自の句風を確立した。
(解説より)
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