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ジョージア映画はこの国の歴史ある民族文化とともに独自の存在感を世界に示してきた。(略)スプラ(ジョージア式宴会)のように人々の魂を謳い、高揚させて度重なる苦難のなかで人々の心を支えてきた。わたしたちにとって未だに知られざる森であるジョージア映画は、いったん分け入ると、その奥深さに戸惑いながらも畏敬の念を禁じえない。ジョージアに映画が誕生しておよそ130年、その間、この国の映画人は欧米の映画とは一線を画す魅惑的な作品を数多く製作してきた。恍惚とした生きる歓び、大らかな笑い、身を切るような悲しみ、慟哭、真実への探求、永遠への憧憬―ジョージアの人たちの人間味溢れる、多様な姿をスクリーンに映し出してきた。
わたしは長い間、ジョージア映画に心を囚われてきた。ジョージア映画を通して人間の在るべき姿を知り、固有の文化、風習に魅了されてきた。この本には、わたしがジョージア映画から知り得たこと、ジョージアの映画人から聞いてきたこと、そのほぼすべてを記した。今日、世界が激しく揺れ動き、過去の歴史が遠のくなか、わたしの拙い文章から、ジョージアの人々の愛や夢、情熱や勇気、誇りに少しでも思いを馳せていただければ幸いである。(略)
19世紀末に映画が誕生して以降、ジョージアでは、1910年代、多くの才能ある芸術家が映画という新しい表現に魅せられ、製作の現場に入っていった。1920年代に入り、ソヴィエト政権下に置かれたが、ロシア・アヴァンギャルドの影響を受けて、芸術的意欲に富んだ作品が盛んに製作された。1930年代、政府によってアヴァンギャルドが否定され、社会主義リアリズムが提唱される。そしてスターリンによる粛清が行われ、多くの国民が処刑され、流刑された。1940年代、第二次世界大戦が勃発、戦中戦後にかけて人々が窮乏するなかで、民衆の心を高揚させるために映画が製作される。
1950年代、スターリンの死後、彼への批判が行われ、「雪どけ」の時代が訪れる。映画にも新しい風が吹き込まれてゆく。1060、70年代、厳しい検閲にもかかわらず、若い才能が多様に開花し、数多くの傑作が誕生する。1980年代、社会経済が低迷し、体制を問う作品が現れてゆく。その後、ペレストロイカ(建て直し)を経て、ソ連邦は解体へと向かう。
1990年代、ジョージアは念願の独立を果たすが、その後に起きた内戦と紛争で社会は荒廃し、映画製作も打撃を受ける。そして21世紀の今日に至るわけである。特にソ連邦時代の政治的な抑圧下、その長く困難な歳月をジョージアの映画人はジョージア人であることを誇りに、作品に自らの民族文化を積極的に取り入れ、体制への批判、自由への願いを込めて作品を製作し、果敢に独自の道を切り開いてきた。(略)
--度重なる困難にもかかわらず、生きる歓びを大切にして、決して屈しない、つよく大らかな心。そして友情に対して揺ぐことのない、無償の与える心、歓待する心。それらジョージア人の気質のすべてが映画の核となって、その比類ない魅力を形作っている。(序章より抜粋)
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