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岩手県大船渡市末崎(まっさき)町の熊野神社には、推定樹齢1200年とも言われる日本最大級のヤブツバキが現存している。
元は、境内の三つの方角に植えられていて「三面椿」と言われていたが、今は1本だけになっている。
大船渡市が位置する岩手県沿岸南部は、リアス海岸が広がり目の前には黒潮と親潮がせめぎ合う世界三大漁場といわれるところだが、暖流の影響か冬でも雪が少なく温暖で、一帯にはヤブツバキが自生しており、ヤブツバキの北限ともいわれている地方である。
この物語の舞台は、奈良に大仏が建立されようとしていた天平十六年にまで遡る。
大仏の鍍金には大量の金が必要だが、その当時日本では金がとれないとされていた。
そのため、宮城県涌谷で初めて金が発見されたことは大変な慶事とされ、聖武天皇年号を天平感宝とするほどだった。大伴家持はこの慶事を「天皇(すめろき)の御代栄えむと東なるみちのくの山に金(くがね)花咲く」と歌に詠んだのは有名である。
以来東北各地で金が産出されたが、特にも岩手県大船渡市を中心とした気仙地方は、昭和18年まで産金が続けられるほどに埋蔵量が豊かで、16世紀までは世界最大級の産金量があったとされるほどであった。これらの金はその後、平泉の中尊寺金色堂に象徴される奥州藤原文化の全盛期を支えたともされている。
この物語は、奈良の大仏の鍍金に使う産金を求め紫香楽に住む青年・築麻呂(つきまろ)がみちのくの産金を求めて奥州へ、そして気仙の熊野神社に来る物語である。途中大地震による大波で海に落ち伊豆大島に流れ着くことから物語がはじまる。
大船渡に現存する日本最大最古とされるヤブツバキと日本で最大級の産金を誇った気仙の産金を二つの縦糸にした、壮大な歴史ロマンである。
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