本書は,大学理工系初年度生,工業高等専門学校上級生,また宇宙に興味を持つ高校生の皆さんを念頭に執筆しました。70年にわたる人類の宇宙開発は,気象衛星やGPS衛星等の分野で実用化を迎える一方,月や太陽系の他の惑星の探査や太陽系生成の謎を探るプロジェクトの実施,さらには人類の宇宙居住のための検討がされています。
宇宙開発には多岐にわたる学問が関連しています。宇宙機の製造や打上げ,運用,さらに気象観測・農漁業観測などの機械,電気電子,通信,誘導,制御等の工学分野や,太陽系生成や宇宙誕生の謎を探る理学分野,打上げや軌道,地球まわりのスペースデブリに関する世界各国の取り決めに関わる法学分野,莫大な費用の大型プロジェクトに関する経済学分野,宇宙環境の人体に与える影響を評価する医学分野なども関係してきます。
本書は,宇宙工学に興味を持つ皆さんに,今(これから)何をどう勉強していけばよいのか,何が必要とされているのかを示すことができればという思いで執筆しました。衛星実用分野においても,宇宙探査分野においても,皆さんが勉強して(しようとして)いる大学教養課程や高校の数学・物理などが,どのように宇宙開発に繋がっているかをご理解いただければ幸いです。
本書1章から6章は,「宇宙航行の基礎と実例」ともいう内容で,人工衛星・宇宙探査機の打上げから予定軌道への投入までを,物理的観点から説明しています。7章は「宇宙航行のための数学・物理」として,1章から6章までの定量的基礎となる数学・物理等を単なる公式集ではなく物理現象を理解できる数学として紹介しています。
1章は万有引力下での天体に成り立つケプラーの法則の物理的意味とその証明を導いています。得られた円錐曲線から,楕円軌道を中心に軌道を定義します。2章は,実用・観測・探査の対象である恒星(太陽),地球を始めとする惑星,衛星,準惑星,小惑星(帯),彗星,エッジワース・カイパーベルト天体やオールトの雲など太陽系天体の概要を述べ,現在までの知見や将来計画について簡単に紹介しています。
3章は衛星・探査機を打ち上げるロケット推進の原理,その性能パラメータ,必要な速度増分を説明し,その後実際の打上げ手順を静止衛星を例に紹介します。4章では静止衛星など地球周回衛星の,その軌道設計から各種軌道(太陽同期軌道,回帰軌道など)について説明します。
5章では,月や惑星を目標とし,打上げからそれらの周回軌道に投入するまでの軌道遷移手順と,それぞれの軌道を表現する鍵となるパラメータを示しています。6章では,1章で二体問題として求めたケプラー運動に対し,他天体の重力の影響,さらに国際宇宙ステーションへの接近やフォーメーションフライト等のランデブー問題や軌道遷移に関するランベルト問題等を取り扱っています。
本書は,天体運動の基礎,宇宙開発の現状から展望・計画まで,少し欲張りな内容となっていますが,その基礎となる数学・物理がどのように使われているかはご理解いただけるように留意したので,ご活用いただければ幸いです。
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