本書は、2020年刊行『グレゴリー・ポール恐竜事典』の姉妹事典となる翼竜に特化した『グレゴリー・ポール翼竜事典』である。古生物骨格図や復元図を専門とする画家であり、古生物研究者でもあるグレゴリー・ポール氏による 115 種の翼竜の精密な骨格図と復元図が掲載されている。恐竜関連の学術書は数多くあるが、本書のように骨格図や復元図を伴う網羅的な翼竜事典は世界的に見ても例がなく、古生物学を志す学生や若手研究者、博物館関係者、古生物愛好家にとってのリファレンスになる稀少価値が極めて高い翼竜学術書である。
翼竜は、コウモリ程度の軽量のものから翼開長 10 m以上という空を飛ぶ動物としては史上最大の大きさまで巨大化したものまで現れている。滑空やたどたどしい飛翔しかできなかった古典的で低代謝の空飛ぶ爬虫類とされているが、一般に現代の爬虫類と考えられているものと近縁でなく解剖学的にも似ていない。研究者の大多数見解は、主竜類の恐竜や鳥類とは一線を画す高代謝でエネルギッシュな主竜類の1種であり、おそらく中生代の初めに近い初期から中期三畳紀に何らかの原始的な形態をもつ種から進化したというものに一致している。
本書の構成は『グレゴリー・ポール恐竜事典』と同様、「翼竜概説」と「翼竜事典」の2部構成となっている。「翼竜概説」では、翼竜と恐竜・鳥類・コウモリの3つのグループを類似点や相違点を取り上げながら機能解剖学的に比較し、翼竜の特性を理解しやすくしている。とりわけ、翼竜の特性の中でも複雑で難解な内容を含む飛翔に関する解説は圧巻である。頭頂部のトサカ・翼膜・尾・爪などの生物学的特徴の観点から飛行制御・離着陸などのメカニズムを論理的に解き明かしている。「翼竜事典」では、これまで発見され学名が与えられた115種の翼竜の骨格図と復元図が精密に描かれている。大きな一まとまりの精密な骨格事典を作ることの1 つの利点は、そういった復元でなければ得られない情報を明らかにすることにある。
恐竜の時代にロマンを感じ、古生物に興味をもつマニアックな読者へ贈る唯一の翼竜学術書。
[原著: The Princeton Field Guide to Pterosaurs, Princeton University Press, 2022]
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