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近年の人工知能(AI)の進歩に見られる社会の一層の情報化は,情報通信量やコンピューティング需要を劇的に増大させている。そのため,従来技術の限界を克服し,今後の情報社会を支える新たなコンピューティングの原理と技術の創出が期待されている。その中の一つが,光を使ったコンピューティング―光コンピューティング―である。
光コンピューティングとは,光の役割が,光通信に見られる通信,あるいは画像センサに見られる計測だけでなく,コンピューティングや知的機能にまで期待されていることの現れでもある。量子コンピューティングはメディアでも盛んに取り上げられているが,光コンピューティングについてはわが国ではまだあまりよく知られてはいないかもしれない。一方,海外の光コンピューティングの研究は2010年代以来きわめて活発になっており,欧米ではスタートアップ企業も多数生まれている。
光コンピューティングという研究領域は,「光」と「コンピューティング」という,一見だいぶ性質が異なる学術領域を基礎としているため,初学者にとっては,研究の前提知識を効率的に収集することは簡単ではないと思われるかもしれない。しかし両者に関して必要最小限の知識や勘所さえつかみ取れれば,光コンピューティング研究の最前線になじむことはそれほど難しくはない。
そこで,本書では「光」―物理学的な側面―と「コンピューティング」―情報学的な側面―を織り交ぜながら,順を追ってじわじわと議論を進めていく。まず,光コンピューティングが着目している光の代表的な性質を振り返る。そこで扱う内容の一部には,中学や高校の理科や物理で習うことも含まれているが,「光をコンピューティングに応用する」という展望を見据え,光の性質を「情報」という観点で捉えていく。つぎに,光コンピューティングを視野に入れながら現代の情報通信技術を俯瞰する。現状のコンピュータの構造的課題やコンピューティング需要の爆発的増大などの背景を概観するとともに,現代のコンピューティングの構造としての方向性をレビューする。
そののち,本書の主題である現代の光コンピューティング研究を俯瞰する。最先端のフォトニクスを駆使した行列ベクトル演算やニューラルネットワークの実現,リザーバコンピューティング,イジングマシン,意思決定などの原理とシステムのメカニズムをできるだけ簡潔に説明する。光の基礎的な性質が情報機能とさまざまに融合し,光コンピューティングの新たな潮流がつぎつぎと生まれている様子が感じられるだろう。
AIやBeyond 5Gなどに見られる先端情報通信技術の社会における重要性から,コンピューティングへの強い要求は今後もとどまることなく進展すると考えられる。そのため光を含め,物理系を活用するコンピューティングの研究の活性度は今後も高い状態で推移すると期待される。本書を契機として,このような研究領域の存在が認知され,研究者の知的好奇心が惹起され,ひいては新たな視点に基づく革新的な光コンピューティングの研究が次々に生まれるという好循環につながれば幸いである。
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