「多文化化」する教室の中で、子どもたちの多様性に応じられる教育とは―多文化社会・ノルウェーとの比較から日本の教師教育を再考する。
近年、ニューカマー移民の増加をはじめとして日本社会の「多文化化」は誰の目にも明らかになりつつある。学校教育においても様々な文化的・民族的背景を持つ学習者の姿が可視化されるようになり、その多様性に応じた教育が求められている。
一方、従来の日本の学校教育では単一民族国家観を前提とする「国際理解教育」や全ての子どもを「同じように扱う」ことを理想とする平等主義的な学校文化が根強く浸透している。このため教育現場におけるさまざまな個別のニーズを持つ子どもへの対応の遅れが指摘されるとともに、教育現場の多文化に対応した体系的な教師教育の整備も進んでおらず、現場で個別の実践が模索される段階にとどまっている。
このような状況に対し、本書では、教育の多文化化を直視し、かつ新自由主義的な「グローバル化」を無批判に受容するのではなく、「社会正義」の視点から教育における不平等や不公正の是正に取り組む教師を育てる教育のあり方を考察する。
社会正義を志向する教師教育を展望するにあたり、本書は日本とノルウェーの現地調査に基づく国際比較研究を扱う。ノルウェーは長らく先住民や少数民族に対し日本と似た同化政策を取ってきたが、移民や難民の受け入れ増大を受け、日本より一足先に多文化社会に舵を切った経緯を持つ。本書では、日本・ノルウェー両国の教育政策・教師教育政策の整理を行うとともに、教員養成課程学生への質問紙調査、教師教育者へのインタビュー、授業観察、学校への訪問調査など現地調査・データ分析を幅広く実施し、両国の教師・教師教育者の戦略や葛藤、問題意識や関心を丁寧に考察するとともに、彼らが制度と実践の矛盾の中で社会正義の実現のために試行錯誤する姿を克明に描き出した。
両国の比較を通じ、日本の教師教育の課題や可能性、その改善に向けた知見や示唆を引き出すことが本書の目的である。
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