「『年譜』『恩師言』『聴講五年』と順次浄書を終えた斉藤は、最後に『内村鑑三先生の足跡』と題する内村伝の著述を志した。これはあらゆる資料を駆使して、内村の誕生から死まで、さらに雑司ヶ谷の墓地に葬り、後に多摩墓地に改葬するまでの内村の全生涯を、日を追って記録することによって、明らかにしようとしたものである。激情家の斉藤にとっては、伝記を綴るとしても、評伝形式のものを物するよりは、こうした年代記形式のものとするほうが、自然だったのであろう。資料として用いたものは内村自身の著書、手紙、日記及び斉藤自身が内村から親しく聞いたところのものであるが、実に精密である。至るところに地図、人物肖像、関連する風景などの彩色スケッチをはさんでいる。その中には内村邸の建物の配置、樹木の種類と数と配置、墓地改葬の際掘り出された遺骨その他のスケッチ、多摩墓地の墓石と庭木の見取り図なども含まれる。
付録巻には「内村鑑三先生の足跡目次」及び「附・内村鑑三先生の歌いし讃美歌表」を収める。後者は札幌農学校学生時代から内村が歌った讃美歌で、斉藤が知り得た174曲をすべて掲げ、それらが571回歌われており、どの歌曲がいつ何回歌われたかを示し、さらにその題目分類とその頻度を示し、「贖罪」関係のものが最も多く歌われたことを示している。
本書はおそらく斉藤が生涯抱きつづけていた内村に対する畏敬と尊敬と、敬愛と感恩のすべてをこめて、精根をこめて書き綴ったものであろう。B4の大判1473頁の1ページ1ページにわく囲いと19行のけい線を自ら引き、その中に一字一字と刻み付けていった本書は、立派な美術本とさえなっている。斉藤のすべての著作中の最高の作である。
1957年(昭和32年、81歳)4月19日に完成された。」
(以上、山本泰次郎著『内村鑑三とひとりの弟子』「第23章病院訪問伝道と著述生活」より)
今回の『復刻・DVD版 内村鑑三先生の足跡』は未公刊であった前述の記録 全5巻+別巻1巻すべてをスキャンし、その画像データをDVDに収め、冊子には①推薦の言葉(山折哲雄)、②原著目次、③注・解説(岩野祐介)、④あとがき(児玉実英)を収録した(100頁+口絵8頁+DVD1枚)。
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