【「まえがき」より】(抜粋)
明版『名公書判清明集』(以下『清明集』)全十四巻は、中国南宋時代の地方官の判語(判決文・裁
判文書)集である。判語の中で地方官たちは、財産・承継をはじめとする民事紛争を審理・調停し、役
所での不正を摘発して綱紀を粛正するだけでなく、「邪教」に惑う民に倫理を説き、家族や女性のある
べき姿を説くなど、現代の判決文の域を超えた発言をしている。
『清明集』は、官吏門・賦役門・文事門・戸婚門・人倫門・人品門・懲悪門の七つの分門で構成され
ている。「官吏」から「人品」に至る六門が、それなりに焦点が絞られた名称であるのに対して、最後
の「懲悪」(悪者どもを懲らしめる)は標題から直ちに内容を想定することができない。全七門の最後
に「その他いろいろ」な雑多な判語が集められているかの如くである。しかし、雑多であるからこそ、
南宋地域社会のヒト・モノ・コトを多面的に映し出した、興味の尽きぬ分門となっている。
他の分門同様「懲悪門」の判語も、法や制度が地方官庁でいかに運用されていたかを詳述する得難い
法制史料である。しかし、私たちがこの史料に惹かれた理由は、地方官庁の下級職員(胥吏)や女性の
社会での活動の有様、「邪教」や民衆の祭祀活動、果ては賭場や渡し場での揉め事などが、百条を超え
る具体的な事例として描かれる社会史料としての面白さにある。本書は、この『清明集』「懲悪門」の
豊かな内容を、現代日本語で伝えようとするものである。
【凡例より】
○本書は、明版『名公書判清明集』巻一二から巻一四(懲悪門)の日本語訳註である。
○底本には、『名公書判清明集』(第二版、中華書局、二〇〇二年)を採用した。
○訳註部分の前に解説「南宋時代の法と裁判―『清明集』を読むために―」および関連地図と南宋時代の司
法行政系統図を、後ろには「引用文献一覧」・「判語作者一覧」および索引を配し、読者の便を図った。
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