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【まえがきより】(抜粋)
本書は、梁武帝(蕭衍)の三人の息子、蕭統、蕭綱、蕭繹をとりあげ、その生涯や人となり、さらに詩文の特色等について、叙したものである。この三人は、政治史でも登場する人物であるが、本書ではもっぱら文学史の立場から記述してみた。
六世紀中国、蕭衍が樹立した梁朝は、南朝文化の最盛期を現出させた。この梁は、仏教が弘通したことで著名だが、文学もたいへん盛行し、この三人の兄弟は、詩人としても、また文人としても、よくしられている。長兄の蕭統(昭明太子)は、『文選』編者としてとくに著名だし、ふたりめの蕭綱(簡文帝)は宮体詩を唱道し、『玉台新詠』編纂を命じたひとである。また最後の蕭繹(元帝)はたいへんな学問ずきで、隻眼でありながらおおくの著作をつづった人物としてしられる。
私はこれまで、六朝やその周辺の文章や文体(ジャンル)などの、作品論あるいはスタイル論ふうの研究に従事してきた。それらのテーマは、やりがいがあり、たいへん興味ぶかいものだったが、しょせんはものに関する研究であり、ひとを相手にしたものではなかった。……今回は研究テーマをすこし変更し、ものでなくひと、とくに文人のほうに移行させてみた。甲という文人が、この世にうまれ、なにごとかをなし、褒貶さまざまに評され、そして死んでいった事跡をたどりつつ、おりおりにつづった詩文を引用して、文学史的な意義や価値を論じてゆく――そうした「ひととその文学」ふうの研究に、はじめて挑戦してみたのである。
最初に手をつけたのは、蕭繹だった。蕭繹は三人中、もっとも劇的な生涯をおくった人物だが、私には、彼の言動やそれをなした理由が理解しやすく、かきやすかったからである。つづいて、蕭統こと昭明太子をとりあげた。彼については、以前から「文選編纂の実態はどうだったのか」の問題に関心があったので、それを中心にかいてみた。三人目の蕭綱には、当初かなり苦労した。彼の人物イメージがつかめず、叙述の方向性がきまらなかったからだ。ただ、彼の晩年(侯景の乱の時期)の事迹をしらべるうちに、「運のわるいひと」という蕭綱像が脳裏にうかんできた。この人物イメージがきまると筆がすすみだし、一気にかきあげることができたのだった。
本書がとりあげた三兄弟は、いずれも文学史上で著名な人物であるが、日本語で手がるによめる評伝ふう研究は、まだ出現していないようだ。本書が、その欠をうめることができれば、たいへんしあわせにおもう。
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