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著者はアウグスティヌスやニュッサのグレゴリオス,マクシモスなど東西の神学に通暁するわが国でも稀有な研究者である。本書は中世キリスト教に関する広範な知識と哲学史に対する深い造詣を駆使しながら,古典の言葉を厳選し,その貴重な意味を簡潔に紹介し現代に蘇らせる。
詩編や雅歌講話,出エジプト記,ロマ書などの書簡を含め旧約・新約の聖書や教父たちの言葉に寄り添いながら,神の働きと人の経験の不思議な出会いを道しるべとして,人が善く生きる術を探究する。
神を実態・本質として知ることはできない。神はその働きであるエネルゲイアを通して初めて知ることができる。人は神の働きを通して,その源泉たる神の存在を知ることができる。中世の神学と哲学には基底に通ずるものがあり,神への愛と知への愛はそれぞれ響き合いながら人々を深い信仰に導き,ヨーロッパの精神風土の基盤となった。
「自己が善きものになる」(魂の形式)ことは自由と意志のもとで判断し,「新しい存在の誕生」となる。それはイエスの復活と深く繋がるものであり,人は脱自的愛を通して「新しい存在」へと生まれ変わる。
本書は聖書や教父の言葉の意味を丁寧に説明し,人生を善く生きるための知恵を示してくれる命の書である。空海や世阿弥,道元などわが国の知性も同じ境地で生きていたことが紹介される。情報化,技術化,スピード化,グローバル化の日常のなかで,読者は清涼な癒しに浸るだろう。
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