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【「はじめに」より】(抜粋)
前著『太平記・梅松論の研究』につづき、『太平記』関連の論考をまとめ、『太平記新考』を上梓する。
本書は以下の五部より構成される。
第一部「古態の探究」は、従来、古態の本文を保つと認識されてきた甲類本に対して、一部の巻において乙類本系統の方が古態をとどめることを論じる二論考を収める。軍記物語は本文異同の大きい伝本群を有することを常としており、そのなかでより古い姿を保つ本文を探究することは、依然として重要な作業と思われる。『太平記』においても、当該の巻を乙類本に古態を認めて読みなおした場合、甲類本を通じて理解していた作品像とはまた違う様相が立ち現れてくる。
第二部「神田本の検証」は、甲類本のなかでも古い本文をもつと見なされることの多い神田本に対して、いくつかの角度から古態性の検証を行ったものである。巻十六においては確かに諸本中、最古態の本文を有することが確認できるが、巻二十七においては「雲景未来記事」を巻の半ばに置く形態の本文よりも、のちの姿をとることを指摘した。また、第二部には神田本の片仮名・平仮名混用という特異な表記と濁点表記に関する論考も収めた。
第三部「作品とその周辺」には、作品理解に関する論考を収めた。冒頭に禅林と『太平記』の距離を批判的に考察した論を掲げたほかは、『源平盛衰記』『梅松論』『応仁記』をとりあげ、『太平記』とあわせ論じた。これらの作品の特色を見極めることで、『太平記』の叙述の特色や文学史的意義はより明瞭なものになると思われる。
第四部「伝本の考察」には、『太平記』諸本の書誌研究、本文研究にかかわる論考を収めた。第一章「国文学研究資料館蔵『太平記』および関連書マイクロ・デジタル資料書誌解題稿」は、初出後十余年を経て、国文学研究資料館における古典籍のデジタル化事業が一気に進んだことを受け、大幅に内容を更新した。
第二章「国文学研究資料館所蔵資料を利用した諸本研究のあり方と課題――『太平記』を例として――」は第一章の副産物というべきものである。マイクロ・デジタル資料を用いた諸本研究の課題としては、いまだ通用しうる内容と思われるので、あわせて収録した。
第五部「研究の来歴」は、一九八〇年代半ばから今日にいたる『太平記』研究の動向を振り返り、主要な論考を紹介したものである。
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