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ワクフ(寄進)をつうじて実現することが期待されたのは成長や発展ではなく,社会の安定と寄進者の安寧であり,そこで資本蓄積と長期経営は目指された。ただ,それはあくまでイスラム法により基礎づけられた理念的な次元での話であって,実態としては,ワクフの逓増と物件の経年劣化が同時進行したことで多くの不動産はその資産価値が下がることなった。それでも,人びとはなんとかしてイスラム法に沿うかたちでワクフの収益性を維持・回復し,そこから収益を回収することに努めた結果,ワクフが不動産の流動性を阻害することは避けられたが,様ざまな係争が生じた。法学者はこれに対処すべく,古典法学の再解釈をつうじてイスラム法の刷新に努めた結果,新たな規定が根づきワクフ経営の手法が多様化した。こうした現実的問題を契機とするイスラム法の創造的書換えがワクフ経営のダイナミズムを生み,そのプロセスを跡づけることを可能にするのが法学書なのである。
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