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渋沢栄一をデザインした新1万円札が来年(2024年)7月に発行され、聖徳太子、福沢諭吉に次いで40年ぶりの新1万円札の顔となる。渋沢が3代目の顔に推挙されたのは戦後日本の経済発展を支えた日本型経営システムの原型を作った功績だろう。渋沢は銀行、鉄道会社など500を超える企業の創設にかかわっただけでなく、東京証券取引所、日本商工会議所なども設立した。渋沢の経営哲学は企業性善説を前提に世のためになる事業を展開すること、目先の利益追求より長期的視点に立って投資をすることだ。経営にあたっては「道徳と経済の両立」を守り抜く、こうした経営哲学(渋沢イズム)が戦後の経済発展を支えた日本型経営システムの原型となった。
しかし、バブル崩壊の前後に発生した内外の急激な変化に対応できなかった日本型経営は1990年代に入り突然失速し、30年間の長きにわたって今も低迷している。その上、日本を代表する複数の大企業が試験データの改ざん、コロナ関連業務委託手数料の水増し請求、車体をわざと傷つけての保険金過大請求などの不祥事を続発させている。
没後90余年、渋沢が新1万円札の顔として蘇るこの機会に渋沢イズムに新しい時代の光と風を当て磨き上げる。それを軸にして地球の限界と折り合える新しい経営システム、あえて言えば新日本型経営システムを構築することで長期不況からの脱出を目指す。それが可能だとすれば、渋沢資本主義を創り上げた経験を持つ日本企業が率先して取り組むべきではないか――。
本書はこんな筆者の願いを込めて、ウエブニュースサイト「ニュースソクラ」に2023年1月~5月、「新1万円札の顔、渋沢が愛した資本主義」のタイトルで27回連載したものを全面的に見直した。第1部で渋沢の人となり・業績を取り上げ、第2部では渋沢イズムを基盤とした日本型経営システムが戦後の経済成長を実現した過程を振り返った。第3部はアメリカ型経営を取り入れた日本企業が30年間の長きにわたってなぜ低迷しているのか、その謎解きとなっている。
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