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何故ヤスパースは、精神医学から哲学へと転じたのか-その理由を探るには、精神医学時代の主著である『精神病理学総論』を紐解き、その「精神医学の哲学」を明らかにする必要がある。そして、その探究は、哲学においても、精神医学においても、重要な意義を持つ。
ヤスパースが『精神病理学総論』において確立した〈了解〉の次元では、〈了解できないもの〉の一つとして〈実存〉が示唆されたが、その「〈実存〉とは何か」という問いこそが、ヤスパースを哲学の道へと歩ませた。したがって、ヤスパースの実存哲学の起源と深化を辿るにあたって、本書での論考は有意義なものとなろう。
一方、ヤスパースの「精神医学の哲学」は、現在の精神医学に対しても〈方法論的自覚〉を喚起し、〈全体としての人間〉として患者を捉える〈実存的コミュニケーション〉の可能性と必要性を訴えかける点で、大きな意義を持ち続けている。その意味において、本書は、その論考を通じて精神医学が常に人間全体を問題にする実践であることを確認し、『DSM 精神疾患の診断・統計マニュアル』至上主義が進みつつあるように見える現代精神医学の在り方に一石を投じるものである。
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