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東京国立博物館やわが国の多くの美術館をはじめ,ボストン美術館など,世界各地の美術館には中国書画の名品が収蔵されている。辛亥革命以後,清の帝室や高官の経済的困窮により,それら多くの作品が海外に流出した。
本書は,中国書画コレクションの一ジャンルである書画碑帖(拓本)について清末民初期における収蔵史を,作品に付随する題跋や収蔵印,書簡や日記に至る膨大な資料の渉猟と緻密な調査により,初めて体系的に解明した本格的な研究成果である。
第1部では,清末に活動を始めた収蔵家,完顔景賢が一族伝来のコレクションを継承したのち,激動する時代にあってどのように自身の収蔵活動を展開していったかを,三つの時期に分けて解明する。その上で,アイデンティの矜持など,彼の収蔵目的の独自性を分析する。
第2部では,二人の収蔵家,端方と顔世清に焦点を当て,時代的に近い完顔景賢の特徴を位置づける。まずは清末最大の収蔵家として知られる端方の収蔵活動を考察し,岡倉天心や敦煌文献の収集家ペリオとも交流のあった端方の対外的な情報発信が中国書画の保全に寄与した一面を指摘する。次に,完顔景賢以後の収蔵家である顔世清を取り上げ,犬養毅や徳富蘇峰も来訪した日本における彼のコレクション展覧会の歴史的意義を考察する。
さらに巻末には,100頁に及ぶ詳細な附録「完顔景賢所蔵書画碑帖一覧表」を掲載する。
中国と日本の近現代史に新たな光を照射するとともに,広く書画コレクターに資料を提供する基盤的業績である。
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