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「シンプルで極端な見解には、必ず意図的な捨象や独断が含まれている。そんなことでは、複雑な自然に対峙することなどできない。予測できない自然と人間のいとなみの折り合いを、森林水文学者が多角的に模索する――中島岳志」
どんなに強固な治水対策をしても、洪水や土砂災害は防げない。特に激化する大雨被害は、人間活動の結果である地球変動が原因であるのに、堤防やダムをつくり続けることで対応するなど、人新世の現代では完全に間違った対策である。最新科学を理解すれば、水害や渇水や土砂災害対策において何を優先するべきか、明らかなのである。
国土交通省も、近年は頻発する水害が防ぎ切れないことを認め、堤防やダムだけでない、流域の住民と協力する「流域治水」プロジェクトを進めている。
けれども、長年にわたり、水害裁判やダム建設で対立を続けてきた流域住民と国が協力することなどできるのだろうか。そもそも国の方針は、川の上流をインフラで固めて、山村の農業や林業を壊滅させていく公共事業に変わりはないからである。
こうした矛盾だらけの水害対策に、研究生活50年の森林水文学者が異議を唱え、「望ましい水害対策」のあり方を探る。
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