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都パリを逐電したラ・モット夫妻は、荒野の一軒家で保護した美しき娘アドリーヌとともに、鬱蒼たる森の僧院に身を隠す。彼らを待ち受けるのは恐るべき悪謀――
今なお世界中で読み継がれる名著『ユドルフォ城の怪奇』に先駆けて執筆され、著者の出世作となったゴシック小説の傑作。刊行から二三二年を経て本邦初訳!
袖口にスリットが入ったグレーのキャムレットの衣装は、彼女の容姿を引き立てこそすれ、飾り立てるものではなかった。開いた胸元には乱れた髪が覆いかぶさり、慌てて纏った軽いベールは、混乱していたためか、上げられたままになっていた。(…)この荒涼とした家、そしてそこに巣くう粗暴な輩たちとはあまりに対照的な、優雅で洗練されたその様相を見るにつけ、彼は、これは実人生での出来事というよりは、想像力が生み出したロマンスなのではないか、という気がしてくるのであった。彼は何とか彼女を慰めようと努めたが、その誠意あふれる同情心に疑いを差し挟む余地はなかった。娘の恐怖心は徐々に収まってゆき、悲しみと同時に感謝の念も湧き上がってきた。
「ああ、ありがたや……」彼女は言った、「わたしをお救いくださるために、天が貴方様を遣わしてくださったのですね……どうか貴方様に神の報いがございますよう……わたしには貴方様以外、この世に一人の味方もないのです……」(本書より)
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