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フリードリヒ・ニーチェ(1844-1900)の生涯と彼の思想展開の極致は1888年にある。この年,彼の最終的境位となる5冊の著作が書き上げられ,執筆生活はこれで終わる。
著作のうち『この人を見よ』では晩年の根本境涯を開く「出来事」である「永劫回帰の思想」が語られる。その「出来事」は彼固有のものであると同時に西洋形而上学,西洋文化の固有性として理解できる。
晩年の思想展開は新たな境涯の開けとなり,1881年の「永劫回帰の思想」の到来が決定的となった。この年から1888年に至る彼の極めて豊かな思索活動は「力への意志」や「遠近法」を中心に新たな「始まり」の訪れとなる。その「始まり」はニヒリズムの徹底としての突発的非連続的「始まり」であり,形而上学的世界理解を逆転的飛躍的に「もう一歩先へ」踏み出すものであった。形而上学的理解の枠組みであるイデアと現象,実在と仮象,物自体と現象あるいは彼岸と此岸などの枠組みそのものが突破される。
永遠に回帰する「瞬間」とは我々自身が真摯な自己対峙を通して決すべき「瞬間」である。「脱落」とは「神は死んだ」後の「霊感」や「啓示」の経験を言う。「瞬間」と「脱落」は否定的体験ではなく,逆転的飛躍的体験であり,喜びに溢れる感謝の言葉となり,語り,歌い,さらには笑い,踊って伝えようとした「歓喜」であった。
ドイツ神秘思想やシェリングの研究者である著者が,学生時代から抱いてきたニーチェの実像に挑む意欲作である。
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