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■「蓋然性」(probability)とは「確からしさ」のことであり、これを数学的に純化することにより「確率」の概念は生まれた。本書は1654年に確率の数学が発見される以前の二千年以上にわたる蓋然性の歴史を、法・科学・商業・哲学・論理学を含む圧倒的に広範な領域で調べ上げ、ハッキングの『確率の出現』の成功以来信憑されてきた単純すぎる確率前史を塗り替える。
■確率概念の淵源として、これまで軽視されていた法理論やスコラ学の役割も本書は丁寧に掬い上げている。また、リスク評価と保険のルーツを掘り起こす第10章「射倖契約」や、数学的確率が産声をあげる場にクローズアップする第11章「サイコロ」の内容は、今後どのような視座から確率史を語る場合にも外せない起点となるだろう。
■法理論の分野で証拠の計量法を考え抜いたバルドゥス(2章)、時代に300年先んじて「相対頻度に基づく蓋然性」のアイデアを着想していたオレーム(6章)、アリストテレス的世界像全体の蓋然性の低さを論証したオートレクール(8章)をはじめ、著者はパスカル以前に蓋然性をめぐって非凡な洞察がなされた事例を数々見出している。この一巻は、タルムードからいかさま賭博の指南書に至るまでの幅広いテクストに賢哲たちの苦闘の跡をたどり、彼らの推論術と叡智にふれる旅でもあるのだ。
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