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明治5年生まれの矢崎千代二は洋画の草創期から油彩画を学び、名を成しながらも、後半生は「旅の絵師」となって世界各地で出会う一瞬の光景を、「色の速写」と名付けた独自のパステル画法で描き続けた。
画家の足跡は、最晩年に北京で徐悲鴻(じょひこう)に託した1008点の作品に刻まれている。本書では、中国中央美術学院美術館に所蔵されるそれらの作品の悉皆調査を中心に国内外の資料を渉猟し、矢崎の生涯を追った。また、矢崎はパステル製造の国産化に尽力し、一般の人々へのパステル画の普及にも功績を残した。油彩や水彩と同じく、明治期に導入されたパステルが、日本でいかにして受容されていったのか。「顔料を練り固めただけ」という最もシンプルな絵具を巡る小史を記した。
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