緩和ケアという森にはさまざまな木(テーマ)が生えている.そんな森に足を踏み入れようとしているあなたに,初心者時代の記憶新しい著者らが記す,<緩和ケアの“超入門書”シリーズ>!!
本巻では死亡直前期の対応について解説.予後予測や意思決定支援の実際から,急変時の対応,輸液,鎮静,看取りの作法など,初心者には困難を感じやすい局面を取り上げる.患者の最期に関わる全ての医療者に.
【書評】
ヘンゼルとグレーテルは緩和ケアの森のなかでもう迷うことはない
リアルでもインターネットでも書店の医学書のコーナーにいけば,緩和ケアに関するさまざまな書籍が並んでいる.エビデンスに基づくガイドラインが整備され,緩和ケアの専門家を目指す者が手にとるべき標準テキストも用意されている.評者が緩和ケアの森に足を踏み入れたのは20年ほど前だが,その頃に比べると知識を得るツールは,はるかに充実している.
しかし,リアルワールドにおける緩和ケアの実践には依然としていくつもの迷い道が残されている.とくにimminent death(死が近づいたとき)において,あなたが医療チームのなかでどのような役割を担い,どのような治療やケアを取捨選択し,また患者や家族の前でどのように振る舞い,どのような言葉をかけるのか.教科書やガイドラインを読むだけでは立ち行かない.しかも不幸にして私たちはしばしば孤独である.幾人もの同僚がいて,目の前の問題にどう対処すべきか,経験を分かち合いながらいつでも話し合える環境にはなかなか巡り会えない.
目の前の患者に残された時間はどのくらいなのか,苦痛を和らげ患者の自己実現を支援するには何をすればよいのか,解決が困難な耐えがたいつらさにどのように対処するのか,苦痛緩和のための鎮静を適切に行うにはどうしたらよいのか.緩和ケアの専門家を志すものは皆,死の直前にあってつらさを抱えた患者や家族を目前にして悩み,ゆらぎ,それでも考え抜くことを重ねてきた.森のなかを行きつ戻りつして,本当にあれでよかったのかと何度も問い直しながら.
本書はそうした悩みやゆらぎのなかで誰もが迷い込むいくつかの小道に,道しるべを置いてくれる.まるで森へと迷い込んだヘンゼルとグレーテルが,道々にパンくずを目印として落としていったように.しかも童話と違ってパンくずを食べてしまう小鳥や意地悪な魔女はいない.代わりにDr森田という森の賢者がところどころで大切な助言までくれるのだ.
もちろん目の前の患者のために思い悩み,考え抜くことが実践者にとって大切な財産になることは昔も今も変わらない.しかし,緩和ケアを志して深い森に初めて足を踏み入れるとき,本書が傍らにあることは,あなたを力づけ,その冒険の大きな助けになることだろう.
臨床雑誌内科133巻2号(2024年2月号)より転載
評者●永山 淳(国家公務員共済組合連合会浜の町病院緩和医療内科)
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