今から八十年ほど前の一九四五(昭和二十)年七月、奈良の興福寺にあった国宝の仏像が、列車にのせられました。吉野まで運ばれ、民家の土蔵にあずけられたのです。その家に住む少年、総一郎は、仏像のなかでも阿修羅が好きになりました。
「阿修羅さんは戦いの神様なんや。手が六本もあるから、強いわけか。手を合わせているのは、日本が勝つように祈っているんやな」
ところが……。
戦争が終わり、苦しい気持ちを阿修羅さんに何度もぶつけながら、総一郎は気づき、そして知るのです。阿修羅さんが合掌しているほんとうのわけを。
ほんとうにあったできごとをもとに、阿修羅と対峙する少年の変化と成長を描く戦争児童文学。
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