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二〇二二年二月、ロシアがウクライナに侵攻した。世界を混乱の渦に陥れたこの軍事紛争は、日本の食と農も激しく揺さぶった。戦争をかつてなく身近に感じる日々の中で、日本ではあまり耳にすることがなかった言葉がニュースで盛んに取り上げられるようになった。食料安全保障だ。
ウクライナ危機に先立ち、まず新型コロナが農業界を苦境に陥れていた。イベントの中止や飲食店の休業、学校給食の停止で、多くの農家が販路を失った。この経験は硬直的な販売手法のもろさを浮き彫りにし、環境の変化に柔軟に対応できる販売の仕組みを構築することの大切さに気づかせた。
コロナ前の日常を取り戻すことができないうちに、ウクライナ侵攻が始まった。穀物の輸出大国同士の紛争で国際相場が急騰し、食品の多くを輸入に頼る我が国の食卓を直撃した。輸送費や資材費の上昇で食品価格はもともと上がる気配を見せていたが、ウクライナ危機は長く日本を覆い続けたデフレ圧力を最悪の形で吹き飛ばし、値上げラッシュを引き起こした。
その傍らで農業は経験したことのない深刻な状況に陥った。
実際に値段が上がったのはメーカーが製造する加工食品や外食チェーンのメニューが中心で、コストを価格に転嫁できた農産物はごくわずか。軍事紛争による肥料と飼料の価格高騰というダブルパンチを受け、農業生産の収益性がみるみるうちに悪化した。廃業に追い込まれた例も少なくない。
浮かび上がったのは、農産物や生産資材を海外に依存することで日本が抱え込んでいた巨大なリスクだ。遠因をさぐっていくと、食生活の変化を的確に見通しながら、それに対応する手立てを怠った戦後農政にたどりつく。だが政策で選択した結果なら、やり方を変えればこれまでと違う道を開くこともできる。日本の農業が直面した危機は、その突破口も示唆している。
大型の台風など頻発する自然災害も、農業生産を揺さぶっている。「過去最大級」「十年に一度」などと表現される災害が毎年のように日本のどこかを襲い、農業生産に大きな被害をもたらす。しかも気候変動問題への対応は、有機栽培をはじめとした環境調和型の農業への変容を迫っている。では未来を担う現場の農業者たちは、次々に押し寄せる変化の波にどう向き合おうとしているのか。それが本書のテーマになる。
新たに登場した若き農業者は、世界情勢を読みながら農政のはるか先を行き、日本の農業の新しいかたちを創造しようとしている。
本書は、日本経済新聞の農業記者が不連続な危機に対応しさらなる進化を遂げようとしている日本の農を活写するもの。
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