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食生活と生活環境の安全性を求めて
本書は「食品のカビ汚染と危害」(2003)以後に著者自身が集めた食品のカビ72属238種(関連菌を含む)を基にし,培養コロニーのカラー写真,光学顕微鏡によるシャープな形態と走査電子顕微鏡(子嚢胞子)の写真を編集した図版を中心に,それぞれの菌の形態・分布と生態(検出食品の種類・環境・作物やヒトに対する病原性),発育条件や耐熱性,関連菌との遺伝子解析による系統分類,カビ毒(マイコトキシン)産生を集めたノートなどが書かれています.本書の魅力は何といっても食品や身の廻りにあるカビが,培養と顕微鏡による細かな観察の結果から,美術デザイナーも驚くほど美しい様々な形をした姿を目にするワクワク感です.私たちの食生活が安全であるために,食品衛生検査では微生物試験が細菌・カビを対象に行われています.AIに基づく品質管理技術がカビの学名同定に対しても適用されるようになりました.しかし,形態による同定の確認が必要です.本書ではカビの同定に対応して,遺伝子情報を基にした新分類システムのマニュアルとして食品のカビを検索できるよう,記載内容を充実しました.特に,重要なカビ毒(アフラトキシン)を産生する種があるコウジカビ(Aspergillus),ムギ赤かび病菌があるフザリウム菌(Fusarium),低温保管の食品に発生が多く,また黄変米菌やチーズの製造菌があるアオカビ(Penicillium)については,カビ毒の解説とともに既応の分類システムの要約,同定法,クラスター(系統分類群)別検索表を示し,容易に試験できるよう配慮しました.本書の特徴として,好乾性菌と耐熱性菌について好湿・中湿性菌や易熱性菌と区別できるように記載しました.好乾性菌については項目を別にし,培養検査での省力化を図りました.好乾性菌の対象は長期保存中の穀類,乾燥や糖分・塩分の多い保存食品での好乾性コウジカビの危害が主でしたが,最近では消費者の嗜好が広まり,チョコレート,ドライフルーツ,ブルーベリー,香辛料,カンゾウ,黒糖などの輸入品から様々な好乾性菌を検出しています.特に好乾性の強い菌では,50%蔗糖添加培地での観察が行われています.一方,めん・パスタ・ピザ・総菜類などの加熱加工品やスポーツ飲料など,製造段階で加熱工程のある食品・飲料からは,思い掛けない耐熱性菌の事故が多発しています.土壌・環境中のカビが食材に一次汚染し,加熱加工により胞子活性化のため発芽,菌糸が発育するのが原因です.耐熱性菌については,形態観察と同定,耐熱性データ情報を重点的に記述しました.
日本には伝統的な食文化があり,外国にない農水産物が作られています.調査対象も多く,多様なカビが見られます.蜂蜜のハチノスカビ,冷蔵生肉のエダケカビ,メロンを腐敗し食中毒の原因になったトマトばら色かび,ソースに発生する好酢菌などのほか,浴室・冷蔵庫・窓などの室内環境に多いカビ・アレルゲン・ヒトや家畜の病原になる黒色真菌などの記載もあります.
著者は1955-92年,国立衛生試験所に勤務,農学博士.(著者記す)
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