プラーツは紛れもない「旅する人」であった。マリオ・プラーツが生涯で書き残したエッセイ/論考のなかでもっとも美しい文章は、古都プラハを描写したものである。「チェコスロヴァキアのディイェ(ターヤ)川流域の原始林におおわれた湿地には白鹿が棲んでいる。この動物は臆病で人前に姿を見せないので、この場所を訪れる人びとはその存在に想いをめぐらせるだけで満足しなければならない。……しかしこの珍しい動物とめぐりあう幸運に恵まれなくても、この森はもうひとつのかけがえのない経験を秘めている。この森は物質の変容という法則を学ぶことのできる、世界でも四、五箇所しかない場所のひとつなのである。木の葉は落ちるがままで、腐敗し、新たな生命へと変容する」(『官能の庭』所収)。この華麗な筆致による、しかも詳細な記述は、彼が実際にプラハを丹念に「歩いて、見た」ことをわれわれに推測させる。その碩学が同じように、パリを、折々のイタリアを、逍遙し、夢/幻、夢想/幻想のあわいに成立する芸術の始原へと誘う珠玉のエッセイ集!
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