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【まえがき より】(抜粋)
本書は三部に分かれ、各部にいくつかの章を立てている。第一部「『古今小説』原刻版の諸問題」では、「三言」に先驅けて成立した『古今小説』の成立状況を理解すべく、その原刻版と出版關係者について考察する。第一章では、『古今小説』諸版本の成立の先後、相互關係を明らかにし、もっとも古く重要視すべき版本を見定める。……第二章では、その序文を書いた?天館主人について檢討する。從來の研究では、該當者不明とされたり、また明代末期に出版界で活動した馮夢龍とされてきたが、筆者は上海出身の官僚葉有聲であろうと提起する。……第三章では、前章で論じた葉有聲の親類たちが、中國繪畫史に比類なき名をのこす董其昌と淺からぬ關係を持つことを論じる。……
第二部では、『古今小説』の覆刻版について論じる。……この覆刻版は原刻版と何が違うのか、法政本と内閣本は何が違うのか、それを論じたのが第四章であり、第一部第一章から續く内容である。この覆刻版は、しばらく原刻版と同じ書名のままで、すなわちコピー商品として印行されていたが、ある時に改名して『喩世明言』としてリニューアル出版される。ただ その當初の姿と考えられる四十卷本が現存しておらず、『古今小説』四十卷本がその代役のように扱われ、混同されているのが現状である。果たして、『喩世明言』四十卷本は實際に出版されていたのだろうか。この難題について、『喩世明言』二十四卷本とその刊行者の出版活動を幅廣く見て論じるのが第五章である。……第六章は、北京大學圖書館所藏の『喩世明言』殘本について論じる。……
第三部では『古今小説』『警世通言』『醒世恆言』の収録作品、収録傾向、他ジャンルへの展開、各小説集の出版の關連性について論じる。第七章と第八章では、各小説集の地域性や地理情報について考察する。第七章では、『警世通言』の蘇州と揚州を舞臺にした物語の特徴について論じてゆく。……第八章では、前章でとりあげた『警世通言』卷十一「蘇知縣羅衫再合」と卷三十四「王嬌鸞百年長恨」に焦點をあてる。……第九章、第十章では知識人や官僚に關わる問題を考察する。……第九章では、『古今小説』『警世通言』『醒世恆言』の中から、主に明代を舞臺にした科擧を描いた作品をとりあげ、各作品と各小説集の特徴を論じる。……第十章は、明代末期に成立する白話小説『蘇知縣羅衫再合』(『警世通言』卷十一)と、それを基に作られた崑曲『羅衫記傳奇』について、その登場人物と物語の變容について考察する。……第十一章では、本書の總括的な考察として、『警世通言』と『醒世恆言』の各版本に焦點を當て、『喩世明言』と合わせて「三言」というシリーズになってゆく過程を探ってゆく。
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