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モデル・女優の太田莉菜と、2023年度JAGDA新人賞を受賞した気鋭のアートディレクター・矢後直規による、テキストとビジュアルの往復書簡。
モデル・女優であり、肉体が写真や映像に写ることが前提の仕事をしている太田莉菜が、ある時感じた「写真や映像じゃなくて、線になりたい」という願望を起点に、太田とアートディレクター・矢後直規がコラボレーションして追求した「見た目以外での太田らしさとは何か」という表現のかたち。
本書は同名の展覧会がきっかけになり生まれました。
展覧会ではまず、太田がプライベートで撮った写真数十点から太田らしいと感じるモチーフを選び、そのモチーフを矢後が一枚一枚B4サイズのキャンバスに描き作品を完成させました。それを元にB3サイズ、B1サイズと作品を展開させ、さらに「肉体が写らない=透明」という考え方から、ステンドグラスをイメージしたアクリル作品も制作しました。
そして、それらの作品とともに太田のお気に入りの洋服をかけた椅子や愛読書などを配置し、太田のプライベート空間のような場所を作り上げました。
本書では展覧会のドキュメント写真と太田自身による言葉で構成されています。
ページを捲ると、太田の姿は写っていないのに、本人の言葉がこだまし、ページとページの間にその存在を感じる、摩訶不思議な読書体験が始まります。
*
「太田莉菜」は、果たしてこの世に何人存在するのだろう。
私自身、心の中の「太田莉菜」。
母親である「太田莉菜」。
表現者としての「太田莉菜」。
家族から見た「太田莉菜」。
友人から見た「太田莉菜」。
パートナーから見た「太田莉菜」。
SNSで見る「太田莉菜」。
週刊誌やネットニュースで見る「太田莉菜」。
誰かにとっては良い存在かもしれないし、
誰かにとっては悪い存在かもしれない。
名前と姿形がいつからか独り歩きして、
何人もの「太田莉菜」がこの世には存在している。
私は、そう思っている。
私は確実に存在しているけれど、
どうやら実態がない様にも思えるのだ。
輪郭やイメージ、何かの断片を頼りにして
出来上がっていく「太田莉菜」は
多様に存在していて、
それがとても不思議である。
本当の「太田莉菜」はどこにいるのだろう?
太田莉菜
(展覧会フライヤーより引用)
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