和歌 書 著作(その二)
和歌と書、および第一・第二巻収録の『扶氏経験遺訓』に続き、著作の一部を各解説とともに収録。
【和歌】緒方洪庵が多くの和歌を残し、多くの短冊を書いたことについては、緒方富雄『緒方洪庵伝』(岩波書店、初版1942年、第2版1963年)が夙に紹介したところである。そして、1977年刊行の同書第二版増補版に『緒方洪庵歌集』という1章を立て、洪庵の短歌475首と歌文18篇を掲載した。これは、緒方家に伝わる歌稿「春之巻」「夏之巻」「恋のまき」「詠艸」や短冊などをまとめて、佐佐木信綱氏に選歌と整理を依頼したものである。しかし、『緒方洪庵歌集』には、同氏が歌集としてまとめる過程で字句を改変した和歌も含まれている。歌集としての性格上、作歌の際の推敲のあとなどは、当然反映されていない。
そこで本巻では、前記歌稿を改めて精査し、合点や語句の修正、添削の書き入れに至るまで可能な限り原史料の実態を再現すべく翻刻した。また、『緒方洪庵伝 第二版増補版』刊行後に見出された和歌や従来未翻刻であった和歌の翻刻はもとより、これまで知られていた和歌等についても再度所蔵調査を実施し、可能な限り原史料に即して翻刻をおこなった。本巻に収録したものは短歌813首と歌文19篇にのぼる。それにより、洪庵の作歌活動や和歌を通じた人間関係などが、従来以上に時系列を追って具体的に辿れるようになった。
【書】近世期の多くの学者に違わず、緒方洪庵も多くの漢文の書幅を人に書き与えている。その総数の把握は容易ではなく、なお不明な点も多いが、現在把握できた14点の書幅について、史料1点ごとに原史料の写真を掲載し、釈文、印文、訓読、語釈、現代語訳、備考の順に載せた。これらの書幅の多くは、医に関わる人物の心構えを示すものとして、彼の子孫や門弟に書き与えられたのであり、洪庵の思想・信条を知る上で、重要な意味を持つ。
【著作】洪庵の著作については、写本の形で伝わるものも含めると30点以上確認されているが、本巻には、ドイツ人医師フーフェラントの著書『医学必携』の末尾に掲載された「医師の義務」を洪庵が翻訳した「扶氏医戒之略」、薬の処方集「適々斎薬室膠柱方」、感染症であるコレラの治療法を門人たちのために簡潔にまとめて示した「家塾虎狼痢治則」、西洋医方書の訳書「袖珍内外方叢」、度量衡をまとめた『遠西医方名物考補遺』凡例および「西洋新旧度量比較表」、医薬品関係の蘭語ラテン語対訳辞書である「医薬品術語集」「涅垤尓独乙亜波底幾薬剤羅甸名」の計8点の著作を収めた。
洪庵の著作については、分野が多岐にわたることもあり、体系的な研究はいまだなされておらず、その全貌もまだ把握されていないのが現状である。『緒方洪庵全集』では、洪庵の全著作の把握に努め、現段階において知りうるすべての著作を収録した。写本の形で伝わるものについては、可能な限り異本を収集し、その中から洪庵が執筆したものに最も近いと判断されるものを底本とした。異本の情報も解説で補足しており、今後の洪庵研究の基礎史料となるものである。
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