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本書「はじめに」によれば、著者の<テーマ設定>や<ねらい>及び<論点等>は次のとおりです。
「生物多様性」という用語は、自然環境の保全を考える際に必ず登場するものではあるが、古くから使われていた用語ではなく、1992年の「地球サミット(国連環境開発会議)」やその年に採択された「生物多様性条約」によって世界中に一気に広まったものであり、その歴史はわずか三十有余年といえます。そうした事情も影響してか、「生物多様性」について語られることが多くなったものの、その意味を正確に理解している人は決して多くはないようです。
本書では、こうした<生物多様性の意味や意義>について考えていきます。生命が誕生して40億年、現在は6回目の大量絶滅時代と言われていますが、それを引き起こしているのは「私たち人類」であり、この危機の深刻さを認識するためにも<生物多様性への正しい理解>が求められているのです。
本書は、書名が示すとおり「生物多様性と倫理、社会」をテーマとしていますが、単に<生物多様性そのものの解説>にとどまることなく、「生物多様性」に関する「倫理」や「社会」のあり方について考えていきます。そもそも「生物多様性」を考える上で、生命に関する難しい問題も横たわっています。例えば、「人と他の生物の区別はつくか?」という問いに、説得力のある答えを出すことができるでしょうか。また、保全すべき対象である「自然」とはどのようなものでしょうか。人が立ち入ることがない原生自然のみが保全の対象なのでしょうか。あるいは、田園風景が広がる里山や近所の公園の森なども対象に加えるべきなのでしょうか。こうした根源的な問いについても、現実の法や政策の経緯と現状も踏まえつつ、正面から考えていきます。
本書の特色としては、「生物多様性と倫理、社会」を考える上で、「企業」と「NPO」の2つの視点から論じていることが挙げられます。なぜ、「企業」と「NPO」なのか。これは、一義的には、極めて単純な話として、筆者がこれまで深くかかわってきたアクター(主体)が企業とNPO(特定非営利活動法人という狭い意味ではなく、広く市民活動・市民運動を行うグループという広い意味で使います)であったからです。そして、それだけでなく、生物多様性の保全(あるいはその逆の自然破壊)に関係するアクターとしても、この両者は、良きにつけ悪しきにつけ、極めて重要な役割を果たしてきており、そうしたアクターやそれを取り巻く状況を探求することで、より具体的な生物多様性の保全のあり方を描くことができると考えたからにほかなりません。
読者の皆さんには、本書を読みながら、対象となる自然に思いを馳せ、自然や生きものについて興味をもち、それを好きになってくれる人が増え、ともにその抱える課題について考えていけることを願ってやみません。
なお、現在は、「気候危機」や「海洋プラスチック」など、急激に変化する生物多様性を巡る動向を反映させた「改訂版」が発行されています。
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