特集:咳の診断 これだけ読んで目星をつける
咳は、急性上気道炎、感染後咳嗽、タバコ気管支炎、ACE阻害薬の副作用など、身近な原因で生じる極めてありふれた症候であり、患者の診療所受診動機としても最も頻度が高い症状である。先に挙げた疾患が自然治癒したり(感染後咳嗽)、原因(喫煙・薬剤)の回避により軽快する一方で、しつこく続く咳を訴える患者も多く受診する。咳は呼吸器疾患以外の様々な原因でも生じる症状であるため横断的・学際的特性が大きい。従って、アレルギー・呼吸器専門医のみならず家庭医(総合内科医、総合診療医)にも正しい理解が求められる。
咳の診療でまず念頭におくべきは、咳が他臓器からの転移も含めた肺腫瘍、肺結核、間質性肺炎、未だ収束に至らない新型コロナウィルス感染症など、重篤化し得る疾患の初発症状や主訴となりうることである。かかる疾患では現症・随伴症状や胸部画像診断などの検査も駆使して、早期に診断をつける必要がある。一方、胸部画像や身体所見の異常を伴わない咳を唯一の症状とし、生命の危険は伴わないものの診断や治療に難渋する「狭義の」遷延性・慢性咳嗽患者が近年増加し、関心が高まっている背景から、ガイドラインや診療指針が整備されてきた。本特集も狭義の遷延性・慢性咳嗽に焦点を絞って企画した。
病的な咳は患者の消耗やQOL低下をもたらすが、一方で咳は気道に侵入する異物や病原体、ひいては感染症に対する生体防御反応である。中枢性鎮咳薬は処方薬・市販薬として頻用されるが、無効例が多く、生体防御反応としての咳の抑制と誤嚥リスクを惹起し、便秘・眠気など副作用も多い。このことからも疾患特異的な治療の重要性が強調される。原因疾患の目処(治療前診断)がつきにくい場合に頻度の高い疾患を想定してその特異的治療を行うことは、臨床現場では許容されうる実際的な対応ではある。しかしながら近年咳喘息の認知度が高まったことでその病名が一人歩きしている懸念があり、十分な病歴聴取や検査を行わずに安易に喘息治療薬(特に高価な吸入配合薬)を処方する傾向があることは憂慮すべきである。以上のような背景から、本特集では咳診療の総論的事項を充実させ、また各論ではアレルギー疾患(咳喘息、アレルギー鼻炎)のみならず幅広い原因疾患についてエキスパートの先生方に執筆を依頼した。本特集が「たかが咳」への対応の手がかりとなり、さらに「されど咳」への理解を深める一助ともなれば幸いである。
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