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免疫学における30年以上の研究生活が終わりに近づいたとき、著者は大きな不全感を抱えていた。長いあいだ科学の領域にいたものの、免疫というものの全体あるいは本質は何なのか、さらにいえば、科学という営みが持つ特質とはどういうものなのかという根源的な思索が欠落していたことに気づいたからである。この不全感を埋めるために、著者はフランスでの哲学研究の道を選んだ。免疫学が生み出す成果には哲学的問題が溢れているからである。しかし著者がそこで見たものは、科学的であろうとする哲学の姿だった。そして現代の科学一般はそもそも、哲学を必要としているようには見えない。
科学は解が出るよう自然に問いかける一方で、哲学は解が得られないにもかかわらず真理の探究に向かうという逆説的な営みである。そして科学がそのつど解を得て前に進むのに対し、永遠に開かれた探求こそが哲学であるといわれる。免疫という現象を理解するためにはその両方が必要ではないか。またそうすることは、科学と哲学が実り多い関係を結び直す契機となりうるのではないだろうか。
免疫の働きは防御だけではなく、実証科学が明らかにしたその姿を本書で追うことは驚きの連続である。そこへ哲学から渡された橋から見える眺望は、さらなる驚異と知的刺激に満ちている。
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