映画を追え

映画を追え

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出版社
草思社
著者名
山根貞男
価格
2,640円(本体2,400円+税)
発行年月
2023年2月
判型
四六判
ISBN
9784794226143

戦前の日本映画のフィルムは一説によると一割ぐらいしか残っていないという。映画は一時の消費娯楽とされ、見終わったら廃棄されてきたからだ。全国津々浦々の場末の映画館まで上映が終わると、一様にジャンクされてきた(文字通り刻んでつぶされたり、別の工業資源に使われたりした)。その結果、欧米の各国に比べて、日本映画の保存率は低く名画と言われるものも残っていない。小津安二郎監督や溝口健二監督といった有名監督のサイレントの初期作品はほとんど残っていない。山中貞雄という天才監督も『人情紙風船』『丹下左膳 百万両の壺』『河内山宗俊』の三本しか残っておらず、『抱寝の長脇差』ほか名作は名前のみ知るばかりだ。

 こうした映画収集や保存は国立フィルムセンター(現在はフィルムアーカイブ)が担ってきたが、それ以上に見逃せないのは古フィルムの収集家、言い換えると一種の「オタクたち」、コレクターの存在だ。

 本書は1988年に『突貫小僧』という小津監督作品が著者の知人のコレクターの手により発掘されてからの30年にわたるコレクターたちとのつきあいや古い映画発掘にかかわった体験記である。『突貫小僧』は1929年度作の15分ぐらいのサイレント喜劇で、九・五ミリのパテベビーという、子供向けのおもちゃフィルムとして古道具屋経由で残っていた。小津の初期のサイレント作品はほとんど残っていないだけにこれは貴重な資料である。著者は修復された『突貫小僧』の上映会を1990年に行って以降、関西の「神戸映画資料館」の安井喜雄さんなどと連絡を取りながら、多くのコレクターを訪ねて彼らの人となりやマニアぶりを取材して歩いた。コレクターたちはみな個性的で独自の映画愛にあふれていた。とくに圧巻は第五章で語られる「生駒の怪人」安部善重さんで、生駒近くの廃駅のホームに住んで膨大なフィルムを持っていると噂されるコレクターである。ここに何年も蓮実重彦氏なども巻き込んで交渉に通い、最後には安部さんの死によって「幻のコレクション」は幻のままに消えた話などは怪談話めいた面白さである。第六章はロシアまで行って、旧満洲国から接収されたフィルムの調査に携わる。

 著者はフィルムがどのように残ってきたかを多様な面から探っている。閉鎖された映画館の倉庫、旧家の土蔵、がらくた市の古道具の中に、あるいはマニア間の秘密の情報ルートを通じて、失われたと思われていた「幻の映画」が発見されることがある。今もそれはどこかに眠っているとも言える。古い映画の保存・収集について別の面から光を当てた興味深い読み物である。

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