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移民による移民史――日系ブラジル移民は自らの生きた歴史をどのように叙述したか
本書は、子ども移民としてブラジルに渡り、日系ブラジル社会について生涯にわたり思考し、表現した画家・移民知識人である半田知雄(1906―1996)の芸術的営為、思想を跡づけるものである。これまで参照されてこなかった豊富な一次資料を活用し、日系ブラジル社会において「移民」という歴史的事象がいかに論じられてきたかを追うとともに、半田に注目することにより移民知識人の姿を活写し、日系ブラジル移民史研究の新たな展開を拓くことを目的とする。移民研究者が考え始めるよりもはるかに早い段階から、移民自身は自らの存在と歴史に向き合っていた。その蓄積に敬意を払いそれを踏まえる立場から移民史を考えたい。移民が移民を考え、移民を記述する過程と言説をつぶさに検討することにより、移民たち自身によって生きられた移民史を描き出し、日系ブラジル移民史の叙述の更新に貢献することが本書の目的である。
はじめに、半田の略伝を記したうえで、先行研究の検討、研究課題の設定を行い、全体の構成を示す。
第1章では、ブラジル日系社会における知識人グループの存在と言論活動を、戦前の雑誌を素材に分析し、移民知識人グループの重要な営為としてこれらの資料を位置づける。また、日系知識人の組織的・思想的系譜を探求する。
第2章では、半田が生涯にわたって繰り返し立ち戻った少年時代の記憶をめぐる記述をエゴ・ドキュメント論を起用して論じる。珈琲農園=「ファゼンダ」で子ども移民として過ごした時期は、のちの主著『移民の生活の歴史』と〈移民絵画〉において表象される。半田は自身の少年期をめぐって繰り返し叙述しているが、ここでは、戦前戦後にわたる3種類のテキストに注目し、そこにおいて記憶がいかに再構築され、物語=ナラティヴとして再解釈されているかを論じる。
第3章では、画家としての半田知雄の活動に注目する。半田の執筆活動と絵画制作を繋ぐ軸は「生活」に対するこだわりである。自画像や風景画などの画業を紹介するとともに、〈移民絵画〉を、移民自身が自らの「生活」を表象しその表象が移民の記憶として受容されていくプロセスを叙述する。
第4章では、ブラジル日系社会史における最大の出来事である戦争と敗戦の経験を取り上げる。戦前の国家主義的政策を発端として、戦後の「勝負抗争」の深い軋轢、さらに「他者」として立ち現れた戦後日本からの移民との出会いに至るまでの戦前移民の悩みが深刻化する状況を丁寧に追う。さらに日系社会の戦後「正史」の叙述過程とその内容を分析し、その正史からこぼれ落ちる経験・感情・記憶を汲み取る方法として、移民文学の重要性を『コロニア万葉集』に即して論じる。
第5章では、文化伝承・言語・移民心理という3つのキーワードをたてて半田知雄の思想を体系的に論じる。本章では、半田の思想を貫く問題…
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