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道元の主著『正法眼蔵』は今なお未踏峰として雲海の彼方に聳えています。
鎌倉時代に書かれ、長い秘蔵の時代を経て江戸時代末に公刊され、20世紀に入って和辻哲郎ら近代哲学者が注目することによって広く一般の人々にもその存在が知られるようになりました。
しかし日本中世最高の知性によって書かれたその書物は容易に人を近づけることなく、ただ行間に湛えられた深さと美しさのオーラが立ちこめるばかりです。この半世紀、国内だけでなく海外からも多くの学者が加わって研究が進められていますが、山頂への道はまだ見えていません。
著者は、その原因は大域的戦略の不在にあると見ました。近代人文学の培った細部の分析力だけでは到達しえない高度に頂上はあるはずです。そこで一旦、登山道から外れ、軽飛行機を操縦して道元連峰の上空を飛び、17ヶ所のポイントを撮影してきたのが本書です。仏教専用のレンズはあえて使用を抑え、逆に一見仏教とはかけ離れた分野のツールを積極的に用いた結果、いかにも禅宗風のストイックな風景に替って、限りなく広い大空と大地と、月光を映して輝く一滴の露とが、同時に見えるでしょう。
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