"本書『叡智のアルストピア』であつかわれるテーマは、エジプトから叡智とともに伝わったベルニーニによる《象のオベリスク》とイタリアにおけるエジプト熱、そして新しい科学の発見にともなう知見を映すベルニーニの《アポロンとダフネ》とガリレオの宇宙論、オリエントに由来する膨大な薬草術で病と人びとを治癒する修道女たち、ルネサンス後期にはじめて演じられたオペラの舞台美術で一世を風靡したビビエーナ一族と美術との関係、イギリスの貴族たちのグランド・ツアーの珍品蒐集と絵画コレクションをアレンジした当時の旅行案内書を通してイタリアの芸術と叡智の伝播と広がり、などである。そしてそれらの創造的営為と、それらの起源と展開と伝播(外延)を通して、アルス(芸術)が本来有しているべき叡智(内包)を明らかにすることを目指している。
シリーズ「イタリア美術叢書」は、初期ルネサンス、盛期ルネサンス、マニエリスム、バロック、新古典主義と、いわゆる「美しいアルス」(fine arts, beaux-arts, sch?nen K?nste)、すなわち美術を主たる対象として読み解いてきた。それに加え、本書『叡智のアルストピア』においては、これまでの「アルストピア」に、さらなる内容的拡張が二つの観点から企てられている。そのひとつは、アルストピアという言葉が意味する内的な観点からであり、アルスの原義がもっているより広い意味を生かそうとするものである。もうひとつは、アルトピアという概念が帯びる外的な観点からであり、歴史的・社会的なコンテクストを十分に踏まえようとするものである。
シリーズ「イタリア美術叢書」の各タイトルに付された「アルストピア」(Arstopia)とは、ラテン語の「アルス」と「トピア」からなる造語である。アルスは、英語の「アート」すなわち「芸術」を、「トピア」は、ギリシア語の「トポス」がもつ含意を生かし、「アルスの(ある)場所(トピア)」という意味をもたせている。"
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