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本書は、漢代における五行説の展開について、経学に関係する文献資料に基づいて論述したものである。
五行説はすでに先秦時代に存在しており、この期間に生み出された様々な言説が、漢代に至って整備・総合化された。そして、この整備・総合化が、後代の発展・飛躍に繋がった。二千余年に亘る五行説史に於いて、漢代は、謂わば最初の成熟期にあたる。
しかし、漢代の五行説に関する文献資料の中には、成立年代について疑問の残るものが少なくない。このような不確実な資料に基づいて推論しても、結論は不確実なままである。そこで本書では、研究の蓄積が厚い経学に範囲を絞り、比較的信用できる資料に依拠して検討を行った。
これによって得られた見解は、概ね以下の通りである。先秦時代に展開された様々な五行説が、前漢期ではそれぞれ別個に発展し、かつ儒者たちにも用いられるようになっていた。しかし、系統を異にするそれらの五行説同士を分野を越えて整合させようとする動きは、この時期にはほとんど見られない。一方、前漢末に劉向・劉?が五行説の体系的整理を試みたことによって、後漢以降には、様々な文献に見える五行説同士を整合的に説明しようとする議論が活発化した。
すなわち、前漢以前と後漢以降とで、五行説に関する議論の方向性は大きく異なる。そして、その 転換点は劉向・劉?であったと考えられるのである。
本書では以上のことを、専ら経学に関する資料を用いて検証した。そして、ここで得られた見解を基にすることで、更なる五行説研究の可能性が拓けることについても、二本の附論を設けて論じた。
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