人間活動とその影響を受けた気候変動は、陸面の熱収支や水収支を介して世界の森林の面積やバイオマスを変化させ、森林はまた地球の気候変動に影響を与える。将来にわたり気候を安定化させ、地域や国、国際社会のさまざまな規模で持続可能な人間社会を維持するためには、森林における水や物質の循環と将来の変化、生態系や地域社会への影響を科学的知見に基づき正確に把握しつつ、持続可能な方法で森林が生み出す資源を最大限に活用する手段を見出すことが必要である。それには地域や国、国際社会の全ての規模で必要な制度設計や合意形成が必要となる。気候変動には早急な対策をとらねばならず、対応を先延ばしにすればするほど気候変動の影響への適応は困難になる。しかしその一方で、気候変動対策のための急速な技術の普及や社会の変化は予測しない副作用をもたらす可能性もある。
このように難しい課題に対応する必要に迫られる中で、科学的知見の創出と可視化、現実の問題解決に向けた科学者と社会の協働がますます必要とされている。本書は、森林と水に関わる基本的問題を記しており、前半の第1~3章では、森林を介した水循環、水による物質およびエネルギーの移動、森林と降雪・積雪・融雪(水源涵養)などの基本的な概念と研究成果を概説する。後半の第4章と第5章では、世界の森林の水循環の実態を示すと同時に、執筆者たちが特に取り組んでいる環境変動に関わる研究事例を解説する。地域・国・国際社会のさまざまな規模で生じる複雑な環境問題や社会問題に取り組む方々にとって、森林と水に関わる基礎に立ち返る必要が生じたときに本書は貢献するであろう。
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