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幾多の苦難を乗り越え、全国有数の漁業・水産業コンプレックスを
明日のさらなる豊かさへと引き上げようとする人びとの思いに学ぶ
青森県から福島県南部までの三陸沿岸地域、2011年3月11日の東日本大震災の津波により市街地も地域産業も壊滅した。それから11年、巨大な国家投資によりハード面の復旧は大きく進んだ。他方、この間の人口減少は著しく、多くの地域で20~25%の人口減となった。働くところがなければ人は暮らせない。
三陸地域は古くから漁業、水産加工業を基幹産業としてきた。だがこの数十年、漁業をめぐる環境変化(不漁、国際的な漁業規制)は大きく、加えて消費者の魚食離れも進んでいたため、漁業関連の人びとの間では不安が拡がっていた。そのような中での再出発であった。
その三陸の中でも、宮城県気仙沼市は随一の漁業基地であり、最大の水産加工コンプレックスを形成してきた。それらが津波によって一瞬で流失し、続く復興期の間、漁業、水産加工業という地域の基幹産業の将来が真摯に問い直されてきた。海に支えられ、海に泣かされてきた気仙沼の人びとは、被災を経てなお「海と生きる」という言葉を掲げ、見事に立ち上がり、次の時代に向かおうとしている。筆者がこの地を初めて訪れたのは1986年、以来36年間にわたり200回以上の訪問を重ねる中で、震災後の11年はとりわけ事業者の方々の不屈の思いに胸を打たれることしきりだった。
本書では、この全国有数の水産都市について、その歴史構造的な特質と現状を明らかにし、復興から未来へと向かう姿に注目していく。震災11年目の総括の意味も込めて、第Ⅱ部には復旧・復興の過程を追った現場報告も収めた。
全国的にも旧来の地域産業、地場産業はバブル経済崩壊以降の30年の間に大きく後退している。しかし気仙沼では、最も旧い産業の一つである漁業、水産加工業の世界で、新たな可能性に向けて興味深い取組みが重ねられている。その挑戦は地域産業振興に取り組む全国の人びとにも大きな希望を与えることだろう。(せき・みつひろ)
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