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動物たちの「地政学」や「共存の論理」が人類に呼びかけるもの。
私たちの視線と行動を大切なほうへと向き直させてくれる5つの「追跡」の物語
南仏の放牧地に突如襲来した狼、アメリカのイエローストーン国立公園に生息する灰色熊(グリズリー)、キルギスの山頂付近に棲むユキヒョウ……手探りで獣道を進み、崖沿いの険路を踏み越えながら、南仏出身の哲学者バティスト・モリゾは、野生動物を「追跡」する。そのたくましい体つきは、哲学者というよりも探検家を思わせる。
本書は、著者が経験した五つの追跡の物語を巡る作品だ。追跡という言葉が表す通り、道しるべとなるのは動物が残した痕跡である。モリゾは足跡の形や糞の状態をもとに、動物の行動を思い描く。この動物はこの地でどのように暮らしているのか。この動物は他の生物とどのように共存しているのか。モリゾは動物の論理を学び、その行動の意図を理解し、動物が知覚しているものを突き止めようとする。追跡は徐々に、動物の世界を理解しようとする哲学的な思索へと移行していく。
モリゾが疑問に付すのは、西欧的な「自然」の概念だ。西欧的な自然観は、生物を自然という言葉でひとくくりにし、意志を持たない受動的な存在とみなしている。ところがモリゾが実際に出会う動物たちは、強大な捕食者からミミズに至るまで、実に多様な方法で棲み家を築いている。モリゾはそのような出会いから、西欧の自然主義的な世界観と決別し、生物との関係性に富んだアニミズム的世界観を構築しようと試みる。生物と同じ地平に立ち、共存のための外交関係を築くことはできないかと問いかける。追跡の物語を通して、人間と他の生物との関係性や、生物としての人間のあり方が語られていく。
交互に織り込まれた追跡の物語と思索は、見事な一枚絵をなしている。冒険譚としても哲学書としても楽しめる、世界の見方を一変させてくれる作品。(まるやま・りょう 仏翻訳家)
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