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一三〇〇年の時を超えて、人と自然とその営みを今に伝える風土記。常陸の磨崖仏、播磨の笑い、豊後の地震、肥前の海民、出雲の神がみ――。伝承のことばに分け入り、ゆかりの土地を訪ね、かつてのありようを推理すれば、天皇を頂くヤマトとは異なる、こうではなかったかもしれない世界への入り口が。いざ古代日本列島のフィールドワークへ!
■著者からのメッセージ
不完全なものもいれて五か国、加えて後世の書物に引かれた逸文があるだけだとしても、八世紀以前の日本列島のあちらこちらのすがたを窺い知ることができる文字記録を、われわれが持っているというのは、なんと幸運なことか。(略)
今、わたしができるのは、一三〇〇年を経て伝えられた風土記の伝承群の一つ一つを丹念に解きほぐしながら、編纂の先にあったところのはじまりの現場に、それぞれの話をもっていこうと試みることである。そのような作業をここで、してみたいのである。
むずかしそうなことを言っているようにみえるかもしれないが、現存する風土記のことばに分け入り、それぞれの記録をていねいに読み解いてみようというのが、この本の趣旨である。そのほかには何も求めてはいない。忘れてはならないのは、こまかな断片にしかみえない一つ一つの記事から、その文字数の何倍もの情報を聴きだすには、無心にではなく、わたしの今までの蓄積のすべてをはたらかせてことばに向きあう以外に方法はないということを自覚することである。
それはわたしにとってはいつもの、そして充実した時間なのだが、この本を通してみなさんにも、それって、案外たのしいことだねと思っていただけるように、精一杯に切り結んでいきたい。
――本書「まえがき」より
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