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どうぞ心配しないで下さい、
私はもう心を決めましたから
天才と呼ばれた美術学校生と、そのモデルを務めた少女の悲恋。
大正ロマンの旗手による長編小説を、表題作の連載中断期に綴った
関東大震災の貴重な記録とあわせ、初単行本化。挿絵97枚収録。
葉山はお幹を帰してから、長椅子に腰かけ一つ所を見詰(みつめ)ながら、坐っていた。葉山は若い娘の泣くのをはじめて見た。洪水のような彼女の涙に誘われて一所に押流されそうだった自分を、危く踏止(ふみとど)まった、生れて始めての経験について自分を省みた。(…)
それにしても、彼女が画室を出る時「私もう決心しています」と言った言葉を、葉山はふと思い出した。
「お幹は死ぬかも知れない、それはもう理窟ではない、これは放ってはおけない」そう思いつくと、葉山は弾かれたように椅子から飛上がって、そこそこに着物を着換(きがえ)て外へ飛出した。お幹が、彼から遠く遠く去って行ったであろう路を歩きながら、彼は非常に感傷的(センチメンタル)になって路を急いだ。(本書より)
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