物質を細かく分解していくと、原子、原子核、核子(陽子と中性子)と階層を進み、核子はさらにクォークとグルーオンと呼ばれる素粒子に分解できる。宇宙初期や中性子星中心部などの超高温・高密度の世界ではクォークとグルーオンを基本自由度とした物質が実現し、そこでは真空の相転移である「カイラル対称性の自発的破れ」の回復や「カラー超伝導」と呼ばれる物質状態の実現などの多様な物性現象が発現すると考えられている。
本書は、このような「素粒子の世界の相転移現象」に対する研究の基礎と新たな進展に関する最新の数値シミュレーションの結果や有効模型による解析を使った概説である。有効模型の解析に使われたPythonによる計算コードも公開しているので、数値計算の入門書としても活用できるであろう。
本書の特徴としてその他に以下の事項を上げることができる。
(1) 意欲的な大学学部学生や修士課程の学生諸君を想定し、前提知識を極力廃して本書だけで学習事項が完結する構成になっている。公開されたPythonの計算コードを使い、更に理解を深めることもできる。
(2) ノーベル賞の対象となった南部陽一郎博士の研究の思想に従い、超伝導のBCS理論を基礎としてカイラル対称性の自発的破れとそれに伴う励起モード(南部―ゴールドストーンボソンとしてのπ中間子を含む)の理論が学べる構成となっている。
(3) 和書では初めてとなるカラー超伝導の解説が与えられている。またそこでは、その通常相での前駆現象にも焦点が当てられ、クォーク物質中の対場のゆらぎが引き起こす「擬ギャップ現象」や「伝導率の異常増大」およびその有限エネルギー版としての「電子対生成」の異常増大の可能性が議論されている。
(4) 高温・高密度のクォーク物質を網羅的に探索する高エネルギー重イオン衝突実験の現状と将来計画も紹介されている。
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