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「人生は幸福よりも大きい。なぜなら人生は悲しみでもあるのだから」
(ユダヤ人絶滅収容所に到着した人々 第二巻46章)
ウクライナの町から狩り出され、移送列車でユダヤ人絶滅収容所に到着した人々をガス室が待っている。
生存者グループに選別されて列から離れる夫に結婚指輪とパンを手渡す妻。移送列車で出会った少年の母親がわりをするうちに、生き残る可能性を捨てて少年とガス室に向かった女性外科医──。
赤軍記者として解放直後のトレブリンカ収容所を取材したグロスマンは、ナチ占領下のホロコーストの実態を最も知るソヴィエトの人間だった。
国家と民族の栄光、一方は革命、他方は第三帝国の名のもとに、スターリニズムとナチズムが鏡像関係にあることを、グロスマンは見抜いていた。イデオロギーの力が死や拷問や収容所と結びつくとき、人々はモラルを失った。ナチの絶滅収容所特別指揮官は、私が望んだのではない、運命が手をとって導いたのだと語った。
普遍的な善の観念はイデオロギーとなって、大きな苦難をもたらす。恐怖と狂気の時代に、善意は無力だった。しかし、ささやかで個人的な、証人のいない善意は、無力だから力をもつ。それは盲目的な無言の愛であり、人間であることの意味である。
20世紀の証言が、時空を超えて届く。グロスマンの生涯をかけた哲学的思考が文学に結晶した圧巻の第二部。
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