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「人間である最後の夜に、わたしはこの手紙を書きます。」(「甘美な牢獄」より)
やむにやまれず暗い官能の洞窟へおちこんでいった者たちの、圧倒的なエロスの世界が、いま甦る。稀代の物語作家が描く「この世の地獄」は、煌びやかで残酷な夢想のユートピアであった。
芥川賞を受賞して華々しく文壇に登場した宇能鴻一郎は、1960年代から70年代前半にかけて、濃密な文体で性の深淵をえぐる作品集を40冊余り刊行した。しかし先鋭的すぎたためか当時の文壇ではほとんど無視され、著作も軒並み絶版になっていった。それから半世紀以上を経て、いまようやく宇能文学への関心が高まっている。恐怖とエロティシズムによって性の根源に迫った真正の文学世界は、いま読んでも比類なく新鮮で、麻薬的・原初的な文章の力に圧倒されるだろう。むしろ現代でこそ受け入れられる性質の作品群と思われる。
「この世の地獄を描いて宇能氏の右に出るものはあるまい」と筒井康隆に絶讃された「甘美な牢獄」、思春期の青い性が清冽な「光と風と恋」、満洲で世界の汚辱にあらがう少年の復讐譚「野性の蛇」、谷崎や乱歩の後継となるユートピア奇談「殉教未遂」「狂宴」「神々しき娼婦」、不良少年の優しさに満ちた「雪女の贈り物」「官能旅行」の全8篇を収録。
※七北数人氏を監修者に迎えた「シリーズ 日本語の醍醐味」は、“ハードカバーでゆったり、じっくり味わって読みたい日本文学”をコンセプトに、手に汗握るストーリーではなく、密度の濃い文章、描写力で読ませる作品、言葉自体の力を感じさせる作品を集成してゆきます。"
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