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本書は、経営学、広くは社会科学系の学問領域全般が直面している危機の諸相が、研究の質とインテグリティ(倫理的な一貫性や誠実性)、大学における研究・教育体制、学問と実社会との関係など、多岐にわたる問題との関連で余すところなく描き出された「告発」の書である。
しかし、本書は単なる「批判のための批判」の書などではない。著者のトゥーリッシュ教授は、経営学の再生の可能性を見すえた上で、さまざまな改善策を提案している。
その主な分析と考察の対象となっているのは、欧米各国や豪州などにおける経営研究に見られる問題点とビジネススクールをはじめとする高等教育機関が組織として抱えている問題である。すなわち、世界ランキングの上昇に執着する大学組織・トップジャーナルへの論文掲載自体を目的として編集委員や査読者の意向を過剰に忖度した無内容な論文の量産・研究者の置かれているブラックな労働環境などがあり、それらの問題が詳らかにされる。それは日本を含む他国でも見いだされるものであり、また経営学に限られたものではない。
さらに実学としての側面から考えると、組織経営に関わる人々も無関心ではいられない内容が含まれている。内実が不明な国際標準(グローバルスタンダード)に惑わされて、ひたすら瑣末な「リサーチギャップ」を埋めることを目指す独創性や新奇性に乏しい論文が日本でも量産されているとしたら、それは、個々の研究者の問題であると同時に、関係する諸機関、それ以上の問題でもあるだろう。
本書は、著者自身が当事者として関わってきた内部告発としての側面も持ち、組織エスノグラフィー手法を駆使した労作である。
我々日本の関係者もそれらの問題から目をそらさず、真摯に向き合わなければならない時にきていることを教えてくれる。
【目次】
序 章 はじめに─経営学における危機
第1章 最初から欠陥だらけ─経営学の不幸な生い立ち
第2章 学術研究を堕落させ学問の自由を脅かしつつある監査の暴虐
第3章 レヴィー・ブレイクス─壊滅寸前の研究生活
第4章 学術研究におけるインテグリティの崩壊
第5章 失われし楽園の幻想─経営学における論文撤回の事例から
第6章 経営研究におけるナンセンスの勝利
第7章 欠陥だらけの理論、怪しげな統計、まことしやかなオーセンティックなリーダーシップ論
第8章 「エビデンスベーストの経営」の約束と問題とパラドックスと
第9章 有意義な経営研究の復権を目指して
第10章 経営研究に確固たる目的意識と情熱を取り戻すために
訳者解説
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